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脱力のナンセンス

ピアノの先生に「力を抜きなさい」とか「脱力!」とか叱られて、ますます固くなってしまうわたしですが、理性的に考えて、「脱力しろ」だけではアドバイスになってないですよね。
というわけで調べてみました。


ピアノのテクニックや上達法についての本を見ると、まず「脱力」ついて書いていない本が半分以上なので、必ずしも脱力というアプローチで指導するのが一般的ではないことがわかります。
ピアノを習ったことのある友人に聞くと、言われたことがない、というのと言われていたというのが半々くらいですかね。


本に書かれていることも、脱力ということばでいろいろ違うことを言っている。
大きくわけて肩の力を抜くことをメインに書いている場合と、手首の柔軟性について書いている場合にわかれると思います。


肩系
1. からだをだらんとさせる <= アドバイスとして意味がない
2. 高いところから手を落とす <= そんな馬鹿な
3. 腕の重みを使う <= ブライトハウプトの重力奏法という意味なら否定されている


手首系
4. 運指時の指先から力を抜くこと <= 当たり前。力を入れたままでは動かない
5. 芯のある音を出す <= これは目的
6. 手首を柔軟にする <= これは脱力か?


青柳いずみこの「ピアニストは指先で考える」で紹介されている日本の論文で、ハイフィンガー奏法を駆逐したのが、1905年のドイツのピアノ教師ブライトハウプトの『重力奏法』という本のように書かれていますが、そんなことはまったくなくて、実際 Rudolf Maria Breithaupt の名前は英語の Wikipedia にはないと思う。
ドイツ語のWikipediaにかろうじてあるけれど数行の記述しかない。


その本に書かれていることは、指先の筋肉をリラックスさせて弾きなさい、ということらしく、筋肉理論の発達した現代にとても耐える理論ではなさそうです。


試しに英語で考えると、
Relax the muscle of your fingers.
Do not strain the muscle of your shoulders.
とか、あまり意味をなさないような気がします。
英語で書かれたピアノ上達法で目にしたことはない。


しかし、海外留学した日本人が脱力を徹底的に教えこまれたようなことを書く人が多いのはなぜか、と考えると、たぶんコミュニケーションギャップなのではないか。
先生は、本人のピアノの音をよくしたくて、もっと自然に力を抜いていい音を出しなさい、という指導の過程でいろんなことを言う。
指の使い方、全身の筋肉の使い方などなど。
それをひとまとめに、ああこれが「脱力」か、と理解して日本に帰ってきてわけのわからない禅問答のような指導に結びついたのではないでしょうか。


結論: ピアノの先生に「脱力!」と叱られたら、なにを言っているかわからなくても気にしない。先生の出す音と自分の音の違いをよく聞いて、いい音にするように頑張る。


いかがでしょうか。


追記: 脱力についての本ではありませんが、

ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと
トーマス マーク著

がおすすめです。


新しいことや難しいことやるとき、筋肉は「同時収縮」を起こしているのですが、訓練して上手になるに従い、これが解消されます。
ところが、なんらかの理由で「同時収縮」が解消されない場合、体の故障につながる。それ以前にいい演奏にならない。
そのあたりを力が抜けていない状態、脱力が必要な状態というのではないでしょうか、というのがいまのわたしの理解です。