ネアンデルタール人は私たちと交配した
スヴァンテ・ペーボ著
という本を読みました。
当たり前のことですが、現生人類はネアンデルタール人との交配の子孫ではありません。
それなのになぜスヴァンテ・ペーボほどの科学者がそう思い込んでいるのか。
という興味でナナメ読みです。
人類の系統はミトコンドリアDNAで相当正確にたどれます。
スヴァンテ・ペーボのチームが解読したネアンデルタール人のDNAというのはミトコンドリアDNAとは桁違いに難しい作業でこの成功によって彼は評価されています。
ミトコンドリアDNAで解析するとネアンデルタール人は人類と50万年前とか70万年前とかに分離していますので、普通に考えると混血はあり得ません。セックスしても子供ができない。
ところが解読したネアンデルタール人のDNAの変異と人類(アフリカ人、ヨーロッパ人、中国人)の変異の個所を比較するとアフリカ人にはなくてヨーロッパ人、中国人、パプア人にはある変異の一致率が偶然あり得る確率を超えている。なので、混血している。という論理です。
具体的には、非アフリカ人の一致度がアフリカ人と比べて常に2%多くて、偶然の許容率は0.4%なので偶然ではあり得ない、という言い方をしていたと思う。
これは確率の罠に捉えられているのだと思います。変異がすべて偶然でしかも確率が正規分布(ベル・カーブ)であるならば成り立つ議論かもしれませんが、そんなことは証明されていない。十中八九違う。
ミトコンドリアDNAによって人類は6万年前にアフリカを出て、北に向かって白人になって、東に向かってアジア人になってさらにその一部がアメリカインデアンになったことが証明されています。
これが否定できないので、中東で出会ってそれ以降の拡散に乗って世界に広まったと言っていますが、無理な説明だと思います。
偶然の一致だとすると、非アフリカ人はひとつなので、ヨーロッパ人とアジア人が一致してもおかしくありません。
薬の効果などを立証するときには偶然の一致を可能な限り排除しなくてはならないので、正規分布に頼らざるを得ないのですが、通常の科学的な立証に正規分布を使うときは注意して使わなければいけない(または使わない)のがよいといういい例だと思います。
交配の部分を別にすればDNA解析について汚染を防ぐ努力や証明方法などたいへん厳密にやっていることがわかるので残念だと思いました。
追記:
この記事を書いたあと、専門家が書いた本や、一般向けの本でどうなっているか気にしながら読んでみました。マスコミやネットでの話では、ネアンデルタール人と人類の交配が証明されたという話が通ってしまっていますが、科学者は普通無視するか、軽く否定しているようです。あまりにバカバカしいので手間ヒマかけて否定しない、とか、ないことを証明するというのがあまり科学的な態度ではないので、専門家はやらないとか、せっかく注目をあびているのに水をかけたくないとか、なのでしょうが人類への理解を間違った方に導いているのでよくないなぁ、というのが私の感想です。
追記:2016/01/08
篠田謙一 DNAで語る日本人起源論 2015
というのを読んだら、ネアンデルタール人は人類と交配しているというのを前提にかかれていました。その結果、人類史が支離滅裂になっていて、書いてて自分でおかしいと思わないのだろうか。不思議です。
追記:2016/12/30
有袋類にフクロオオカミというのがいます。哺乳類とは類が違うので交配とか混血とかはまったく不可能ですが、フクロオオカミというくらいなので、オオカミやイヌに似ています。似ているくらいだからそこを形作る遺伝子は哺乳類と似ていると思われますが、遺伝子が似ているからと言って交配したことにはならない。こういうのを平行進化と呼びます。
スヴァンテ・ペーボが比較したのはネアンデルタール人の遺伝子と現代のアフリカ人、ヨーロッパ人、アジア人の遺伝子ですので、なんらかの平行進化の遺伝子変化と重なったものと思います。その証拠に縄文人など古代の人骨からとった遺伝子とネアンデルタール人からとった遺伝子を比較すると交配が否定される。一方で現代日本人は縄文人の子孫であることは立証されている。縄文以後の進化でおきた変化とネアンデルタール人の遺伝子の一部が有意に重なっていたからと言って交配が証明されたことにはなりません。