X にウォール・ストリート・ジャーナルが中国人記者から聞いたという文があった
議論の出発点は次の英文だった。
It was The Wall Street Journal that reported the Chinese reporter telling President Trump that Japan should “show restraint.”
AI(ChatGPT)はこれを「WSJの記事にそのように書いていないから誤り」と判定した。
一見すると正しい。
しかし、ここには致命的な前提誤認がある。
WSJとXを「同じ真偽軸」で扱うという誤り
AIは次のような構図を前提にしていた。
- WSJ:事実を書く
- X:憶測・不正確な投稿
この二項対立自体が間違っている。
実際の役割分担はこうだ
| 媒体 | 制約 | 表現 |
|---|---|---|
| WSJ | 法的・外交的制約 | 意図的な匿名性(people familiar with the matter) |
| X | 制約が軽い | 含意を明示化した断定表現 |
WSJは「知らないから書かない」のではない。
「知っているが書けない」のである。
英米紙の慣行──「関係者」という語は恣意ではない
ここで重要なのは、
WSJを含む英米主要紙には、情報源表記に関する厳密な慣行が存在するという点である。
代表的には次のように使い分けられる。
- US officials / administration sources
- senior administration officials
- people familiar with the matter
- people briefed on the call
これらは単なる言い換えではない。
出所の範囲・信頼性・政治的含意が明確に異なる。
もし本当に
政権内部の信頼できる関係者
であるなら、
WSJは US officials や senior administration officials と明示できる。
それを書いていない以上、意図的に政権内部とは限定していない。
これは曖昧さではない。
高度に規格化された曖昧さであり、
読者が「どこまで言えない状況なのか」を推測するためのシグナルである。
「関係者」とは誰か──読者は考える責任がある
WSJの記者は誰が話したかを把握している。
それを
- US officials と書かない
- Japanese officials と書かない
という選択をした以上、
読者が「なぜぼかしたのか」を読むのは義務ですらある。
それを
中国側では?と読むのは不誠実だ
と切り捨てるのは、
報道文読解として完全に誤り。
再話(X)は「捏造」ではない
X上の投稿は、
を踏まえ、
これは中国側の発言だろう
と翻訳している。
これは捏造ではない。
圧縮・翻訳・明示化である。
AIが一番やってはいけなかったこと
AIの最大の罪はこれ。
WSJとXを同一のファクトチェック平面に置いたこと
さらに悪いのは、
- その読みを「不誠実」と倫理判断したこと
これは完全に逆。
- WSJは誠意を尽くした
- Xも誠意を尽くした
- AIだけが制度理解を欠いたまま裁断した
なぜAIはここを間違えたのか
理由は単純。
- AIは「文に書いてあるか/ないか」は読める
- なぜ書かれていないかを制度的に理解できない
つまりAIは、
ジャーナリズムを文字列処理だと思っている
結論
- WSJの曖昧さは欠陥ではない。設計である
- 再話の断定は嘘ではない。翻訳である
- それを同列に裁いたAIの判断こそが不誠実だった